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XTC/『Mummer』 [CD]

Mummer.jpg1983年8月末にリリースされた XTC の通算6枚目のスタジオ・アルバム『Mummer』。この聞き慣れない Mummer とは、英和辞典によると「クリスマスなどに演じる英国の伝統的な無言劇の役者」「ひたすら身振りと表情のみで演じる役者」とあり、この『Mummer』のアルバムの中にあるスリーブには XTC のメンバーが千切れた新聞紙を全身に纏って仮装している画像が写っている。

『Mummer』は XTC のそれまでにリリースした5枚のアルバムと比べ、最もセールスやチャート面で奮わなかったアルバムで、全英アルバム・チャートでは前作『English Settlement』がそれまでのアルバムで最高の5位にランクされたの対して『Mummer』は最高51位止まりと、1978年のデビュー盤『White Music』の最高38位をも下回る結果だった。

2001年の紙ジャケット仕様リマスター盤に同梱された日本語ライナーによると、この『Mummer』は制作時点から様々なトラブルがあったアルバムと紹介されている。

そのトラブルを羅列すると、『English Settlement』リリース後のツアーをキャンセルしたことによる負債発生、XTC の他に3人ものプロデューサーが関与、オリジナル・メンバーだったドラムの Terry Chambers が制作中に脱退、レーベル Virgin の担当が交代、先行シングル不振で度重なるアルバム・リリースの延期…と、これだけの要素が揃いながら1983年夏に『Mummer』は全10曲のアルバムとしてリリースされたのだから、それもある意味で凄いことだ。

アルバム『Mummer』用のレコーディングは1982年夏頃から始まり、当初は Bryan Ferry や Japan を手掛けた Penguin Cafe Orchestra の創設メンバー Steve Nye がプロデュースを担当したが、『Love On A Farmboy's Wages』のリハーサル中にオリジナル・メンバーだったドラムの Terry が脱退してしまう。

年が明けるとレーベル Virgin の新担当が「ヒット・シングルがない」との理由から、それまでの内容をボツ。Andy Partridge は『Great Fire』を書くが、プロデューサーだった Steve Nye が別の仕事で不在。代わりに前年 Haircut100 のデビュー盤をプロデュースした Bob Sargeant を招くが、4月にリリースした『Great Fire』の結果は奮わず、Virgin は次のシングル候補曲を含めたリミックスを考えて、また別のプロデューサーを引っ張ってきた。

今度は1980年代序盤、Grace Jones のアルバムをプロデュースした Alex Sadkin に次のシングル、Colin Moulding 作の『Wonderland』を含めたリミックスを依頼。1983年6月に『Wonderland』が第二弾の先行シングルとしてリリースされたが、これも不発。『Wonderland』は前年に脱退した Terry がドラムを叩いた2曲のうちのひとつだった。(もう1曲は『Beating Of Hearts』)

紆余曲折を経てレーベル Virgin は二度目のアリバムのリリース延期を提示したが、XTC 側はこれを拒否。ようやく『Mummer』は1983年8月末にリリースされる運びとなった。

今、CD でリリースされている『Mummer』にはシングル『Great Fire』『Wonderland』『Love On A Farmboy's Wages』のカップリング曲が6曲全て収録され、曲数だけでみれば前作『English Settlement』並の16曲入りとなっている。

オリジナルの『Mummer』の最後の曲『Funk Pop A Roll』と、追加された6曲の間には区別されるようにブランクが設けられているが、インストルメンタル曲の『Frost Circus』『Procession Towards Learning Land』も含め、『Mummer』用には多彩な曲が用意されていた。

反対に捉えれば散漫なイメージのアルバムとも言われる『Mummer』だが、ライブ活動をやめてスタジオ・ワークに専念した結果、いろいろなアイデアが溢れ、それを一枚のアルバムに無理に収めようとして混乱に陥ってしまったよう思えるのが『Mummer』というアルバムではないだろうか。

散漫なアルバムのような『Mummer』だが、オリジナルのA面とB面の5曲は編集で巧みに繋がっていて、各サイドは約20分のメドレーのような趣きもある。

リリース当時、多くのトラブルがあり、セールスなどの結果が散々だった『Mummer』だが、改めて聴くとそんなに悪いアルバムなのかな…? とも思える。『Funk Pop A Roll』の突然の幕切れもいいし、現行リマスター盤でこの曲に続くインストルメンタルの『Frost Circus』も不思議な感じが漂い、もし2枚組として『Mummer』がリリースされていたら結果は違っていたかも…と思える。

このインストルメンタルの『Frost Circus』。ボーカルのない曲だが、これこそ『Mummer』というタイトルが意味する「身振りと表情のみで演じる役者」のバックでプレイされる曲のようでもある。

Mummer.jpgMummer Mummer - XTC
Beating Of Hearts
Wonderland
Love On A Farmboy's Wages
Great Fire
Deliver Us From The Elements
Human Alchemy
Ladybird
In Loving Memory Of A Name
Me And The Wind
Funk Pop A Roll
 produced by Steve Nye except ※ by Bob Sargeant
 re-mixed by Alex Sadkin & Phil Thornalley ★


【2001 Remastered CD Bonus tracks】
Frost Circus (released as B-sides on『Great Fire』)
Jump (released as B-sides on『Wonderland』)
Toys (released as B-sides on『Love On A Farmboy's Wages』)
Gold (released as B-sides on『Great Fire』)
Procession Towards Learning Land (released as B-sides on『Great Fire』)
Desert Island (released as B-sides on『Love On A Farmboy's Wages』)

タグ:xtc 1983


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コメント 4

ノエルかえる

こんにちわ、
有り難うございます。
このアルバムは傑作だと私は思いますし、もしかすると、『スカイラーキング』よりも纏まっているかもと思います。
それより何より、これが XTC の本質であるし、
自分たちの資質を真っ正直に表すと言う決意表明だったのだと思います。
ママーは、イングランドの地方で、クリスマスの季節に行われる miracle play(神秘劇) の一連の行事の中の
一つの劇で、聖ゲオルギオスとファーザー・クリスマスが登場するものです。
つまり、彼らはショービジネスのステージではなくて、
土着の芸術を求めることを明らかにしたのだと思います。

セールスの問題は、
APE のフォーラムに投稿されていた意見に、
XTC のデビューからのファンだったけど、『ママー』の頃は、生活が激変して音楽を聴かなくなっていた、と言うのがありました。
実は、多くのファンがそうだったのではないでしょうか。
十代後半でXTC のデビューを見た人たちは、社会に出た頃です。そんなことも要因ではないでしょうか。
同時期にデビューしたバンドのほとんどは、『ママー』の時には、解散しています。
それでも続いた XTC の強さの方が私には印象的なのですが。
by ノエルかえる (2012-02-18 16:41) 

MCMLXV_65

ノエルかえるさん、長文のコメントありがとうございます。
XTCのアルバム、最初から久しぶりに順番に聴き楽しんで、その上、ノエルかえるさんのような考えもお聞きできて、こちらも楽しんでます。
セールスが伸びなかった一因に音楽を聴かなくなった層がいたというのも、あり得る話でしょうね。
同時期に出現したパンク系は1980年代序盤までにほとんどいなくなってしまいましたし、デビュー当時のスタイルが好きだった方には、この頃のXTCは別バンドに思えたでしょう。
同じスタイルを長く続け、しかも生き残っていくのも大変ですが、XTCのように変化をしながら続けていくのも、また大変なことで、この『Mummy』はそれを象徴するアルバムのようにも思います。
by MCMLXV_65 (2012-02-18 20:27) 

ryo

地味ながら味のあるアルバムですよね。
楽曲も粒が揃ってると思うのですが・・・
何故か一般的な評価は低いんですよね(汗)。
by ryo (2012-02-21 23:25) 

MCMLXV_65

ryoさん、コメントありがとう!仰るとおり、いい曲は揃ってますよね、このアルバム。でも、1983年という時代に人気があった曲に比べると、いささか地味だったかも? そういう点が低い評価に繋がってしまったのかなぁ。

アルバムの良し悪しは、そのリリースされたときだけでない、ってことを考えてしまうアルバムですね。
by MCMLXV_65 (2012-02-22 07:21) 

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