Jeff Beck／『Flash』

Jeff Beck のアルバムで最初に買ったのは以前紹介した『Guitar Shop』だったが、その名前を初めて聞いたのは、今回紹介する『Flash』に収められた『People Get Ready』が最初だったと思う。

洋楽を聴き始めた1970年代の終盤、Jeff Beckはアルバム『There and Back』を1980年にリリースしていたが、このアルバムに収められた曲は聴いた記憶がない。後に『Blow by Blow』や『Wired』に収録された曲を「聴いたことがある」と思うようになったが、『People Get Ready』の頃より、もっとずっと後のことだった。

『People Get Ready』はもともと1965年に The Impressions がリリースしたシングルで、当時の Billboard 誌の R&B チャートで最高3位を、同誌の Pop チャートで最高14位を記録した。その曲を Jeff Beck は第1期 Jeff Beck Group でボーカルを務めた Rod Stewart をゲストに迎えてレコーディング。アルバム『Flash』からシングル・カットされた同曲は全米チャートで最高48位をマークした。

この『People Get Ready』の PV は当時『ベストヒットUSA』などの洋楽紹介番組でたくさん流され、Jeff Beck のギターを弾く姿もその頃、初めて見たように思う。

当時は Rod Stewart の渋いボーカルにばかり目がいき、たまにギターを弾く姿が映る Jeff Beck と過去に活動を共にしていたとは全く知らなかった。先日紹介した『Beck-Ola』や、ソロ・デビュー盤『Truth』でふたりのバトルのようなプレイを聴くのは、ずっと後になってだった。

そんな『People Get Ready』を含むアルバム『Flash』だが、このアルバムの前まで Jeff Beck はインストルメンタル曲がメインのアルバムを3作続け、ボーカリストを据えたアルバムは第2期 Jeff Beck Group の『Jeff Beck Group』以来だった(1973年の『Beck, Bogert & Appice』でもボーカル入りの曲はあり)。

Jimmy Hall がボーカルを務めた曲が『Ambitious』を含めて5曲。Karen Lawrence が『Back on the Streets』で、そして Jeff Beck 自身が『Get Workin'』と『Night After Night』でボーカルを担当しているが、お世辞にも Jeff Beck のボーカルはウマいとは言い難い…。

『Flash』はこの頃プロデュース業で引っ張りだこの存在だった Nile Rodgers によるアルバムだが、その影響がこのアルバムでは色濃く、Jeff Beck の存在が埋没してしまい、サウンドにも大きな特徴がみられない。悪い意味で1980年代の流行りのサウンドに装飾されてしまったアルバムだ。

Rod Stewart のボーカルも『People Get Ready』のようなバラードではなく、第1期 Jeff Beck Group のようなふたりのバトルが冴える曲で起用していたら、もっと『Flash』の印象は変わっていたかもしれない。

ボーカルがない曲、『Escape』や『You Know, We Know』の出来も今ひとつと思えるが、それ以外の曲に比べれば、まだ及第点だろうか…?

時代に迎合せず我が道を進むスタイルの Jeff Beck が、敢えて時代に合わせてしまったアルバム『Flash』は、旧知の Carmine Appice や Jan Hammer、手練の Doug Wimbish や Tony Hymas など参加ミュージシャンには恵まれたが、それぞれの個性がいい方向に作用しなかったアルバムだ。

『Flash』
Ambitious
Gets Us All in the End
Escape
People Get Ready
Stop, Look and Listen
Get Workin'
Ecstasy
Night After Night
You Know, We Know
Nighthawks
Back on the Streets

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