Jeff Beck／『You Had It Coming』

U2 の「電脳三部作」ではないが、Jeff Beck のここ最近 (と言っても、もう10年近くも前の…) 3枚のスタジオ・アルバムはデジタル三部作…とでも呼ぶべき? 前作『Who Else!』から、ちょうど2年のインターバルでリリースされた Jeff の機械油まみれの両手が、どアップに写されたジャケットの『You Had It Coming』は、全10曲でわずか35分少々の短いアルバムだった。

しかし、そのインパクトはジャケット同様に強烈な内容で、3分ちょっとの曲が並ぶ前半は、ドラムンベース風な曲あり。Muddy Waters の1950年代の『Rollin' And Tumblin'』のカバーあり。後のライブで欠かせない曲になる『Nadia』があり…と、聴きどころが多かった。

その『Rollin' And Tumblin'』では Imogen Heap という1977年にロンドンで生まれた女性ボーカリストを起用。『Rollin' And Tumblin'』までの4曲から少しテンポを落とした5曲目の『Nadia』は一聴すると Jeff のギター・ワークが冴えるこのアルバム用の新曲に思えたが、この『Nadia』も実はカバー曲だった。オリジナルは Nitin Sawhney というインド系イギリス人アーティストが1999年にリリースした『Beyond Skin』というアルバムに収められていた曲だった。

『You Had It Coming』のレコーディングには前作『Who Else!』に参加した Jennifer Batten や、ベースの Randy Hope-Taylor、ドラムの Steve Alexander が引続き参加し、Jennifer は1曲目の『Earthquake』も書き、後半最初の曲『Loose Cannon』では当時 Simply Red でキーボードやベースを弾いていた Andy Wright と Jeff の三人でライターに記されていた。

その Andy Wright が、この『You Had It Coming』のアルバムのプロデューサーを務め、『Roy's Toy』『Dirty Mind』『Rosebud』『Left Hook』『Suspension』の5曲では Jeff と共に曲を書いていた。

『Who Else!』ではその役割を、Andy Wright と同じキーボード奏者の Tony Hymas が担っていたが、『You Had It Coming』と、続く2003年のスタジオ・アルバム『Jeff』では Andy Wright がその役目を果たしていた。

前半5曲の流れも圧巻だった『You Had It Coming』は、後半最初の『Loose Cannon』では Jeff と Jennifer、Andy Wright の三人が共作したこのアルバムで唯一の5分を超える大作。途中で聴けるギター・ワークはタイトルにあるキャノン砲のようにも聴こえた。

この曲の後は、ベースの Randy Hope-Taylor とドラムの Steve Alexander がライターにある2曲『Rosebud』『Left Hook』が続き、ここでは Jeff Beck 風ドラムンベースなサウンドが楽しめる。この頃に既に50代を迎えていた Jeff だが、この2曲を聴くと全然そんなことを感じさせない若々しさに溢れていた。

9曲目の『Blackbird』はこのアルバムで唯一となる Jeff の単独作。ここではタイトルにある「つぐみ」らしき鳴き声と Jeff のギターの掛け合いがあり、そして最後の曲『Suspension』は『Nadia』と同じくらいにスローな曲で、この曲で『You Had It Coming』は終わる。

この『Suspension』だけが、この三部作以前の Jeff Beck らしいタイプの曲で、アルバムの最後の最後にして、1970年代のソロ時代を彷彿させる曲が配されていた。

You Had It Coming
Earthquake
Roy's Toy
Dirty Mind
Rollin' And Tumblin'
Nadia
Loose Cannon
Rosebud
Left Hook
Blackbird
Suspension

タグ：Jeff Beck 2001