Bruce Springsteen／『Greetings from Asbury Park, N.J.』

スカパー! の海外ドラマ専門局 AXN で放送された『コールドケース』というドラマで Bruce Springsteen の曲ばかりを使ったエピソードが放送された。フィラデルフィア市警の犯罪捜査を扱った『コールドケース』では、事件が起きた頃のヒット曲を BGM に使い、毎回その選曲も番組を見る楽しみだが、先日の放送ではどれも聴いたことのある Bruce Springsteen の曲ばかりで、いつも以上にエピソードに感情移入してしまった。

そのエピソードでは1984年にリリースしたモンスター・アルバム『Born in the U.S.A.』からの曲が多かったが、今回紹介するアルバムは1973年の年明け早々にリリースされたソロ・デビュー盤の『Greetings from Asbury Park, N.J.』。リリースされた年にはアメリカ国内でもわずか25,000枚しか売れなかったらしいが、今では200万枚のセールスを記録している。

アルバムは Bruce Springsteen 名義だが、レコーディングには The E Street Band として長年活動を共にする何人かのメンバーがこのデビュー盤から参加している。サックスの Clarence Clemons、オルガンの Danny Federici、ベースの Garry Tallent の3人は2000年代中盤まで The E Street Band の中核メンバーとして Bruce Springsteen の曲に欠かせないメンバーだった。

『Greetings from Asbury Park, N.J.』に収められた9曲は最新作『Working on a Dream』に伴うツアーの最終日、2009年11月22日のニューヨークの HSBC Arena での公演で、その全曲がプレイされた。

アルバムからは『Blinded by the Light』と『Spirit in the Night』の2枚がシングル・カットされた。『Blinded by the Light』は1977年に Manfred Mann's Earth Band のカバーで全米チャートで No.1 を記録したが、Bruce Springsteen のオリジナルはリリース当時はチャートインを果たせなかった。

『Spirit in the Night』ではドラムの Vini Lopez とサックスの Clarence Clemons 以外の全てパートを Bruce Springsteen が担当。こちらも Manfred Mann's Earth Band がカバーし、全米チャートで最高40位を記録している。

『Greetings from Asbury Park, N.J.』に収録された9曲では Bruce Springsteen の語りかけるような歌詞に圧倒され、1980年前後のアルバムから溯るようにして聴いた最初の印象は別のアーティストのアルバムのようにも感じた。

しかし、ライブで披露される曲も多く含む『Greetings from Asbury Park, N.J.』は、次第にライブでその収録曲を聴くにつれて、歌詞に想いをぶつける Bruce Springsteen の姿とダブり、それぞれの曲の持つ印象が変化していった。あるときはライブ画像に合わせて映しだされる歌詞を見て、あるときは歌詞に合わせて対訳を読むことによって、それぞれの曲にどんな想いが込められているかを知るようになっていった。

今では『Growin' Up』や『For You』もこのアルバムで好きな曲で、David Bowie が後に未発表曲として明らかにした『It's Hard to Be a Saint in the City』も好きな曲になっていった。もちろんシングル・カットされた先の2曲もこのアルバムではお気に入りの曲だ。Bruce Springsteen の言葉の洪水に溺れそうになる『Greetings from Asbury Park, N.J.』だが、機会があれば日本語の歌詞対訳と共に一度は聴いてほしいアルバムだ。

『Greetings from Asbury Park, N.J.』
Blinded by the Light
Growin' Up
Mary Queen of Arkansas
Does This Bus Stop At 82nd Street?
Lost in the Flood
The Angel
For You
Spirit in the Night
It's Hard to Be a Saint in the City

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