Boz Scaggs／『Slow Dancer』

今ではこのジャケットがすっかりお馴染みとなった Boz Scaggs が1974年にリリースした通算6枚目のソロ・アルバム『Slow Dancer』は、海パンだけを履いた Boz が歩くレアなジャケットも一時流通していた。

収録曲の中ではアルバムのタイトル曲『Slow Dancer』や、ニューオリンズ出身の Allen Toussaint のカバー曲『Hercules』がよく知られている有名な曲だが、意外にもこのアルバムからは1枚もシングル・カットがなく、アルバムとしての成績も当時の全米チャートで最高81位と、ブレイクには一歩及ばずという結果だった。

『Silk Degrees』以降のアルバムで Boz はそのスタイルを確立するが、この『Slow Dancer』の時点ではそのスタイルはまだ途中の過程にあった。

アルバム全体のプロデュースは1960年代に Motown で作曲やプロデューサーとして活躍していた Johnny Bristol が担当。Motown 時代の Johnny Bristol は Marvin Gaye や Edwin Starr、The Supremes などの曲を手掛け、1973年には Motown を離れて CBS とプロデューサー契約を交わしていた。

その Johnny Bristol の Motown 時代の人脈から『Slow Dancer』のレコーディングにはベースに James Jamerson、ドラムに Ed Greene、ギターに David T. Walker、Jay Graydon らが参加。他にジャズ系ミュージシャンの Joe Sample がキーボードで、Ernie Watts や Fred Jackson がサックスで、Chuck Findley や Paul Hubinon がトランペットで『Slow Dancer』のレコーディングに参加していた。

その Johnny Bristol が曲作りに関わった『Angel Lady』や『Pain of Love』以降の4曲では Motown サウンドの雰囲気があり、『Angel Lady』のイントロを聴くとブラック・ミュージックが始まるようにも感じる。

また、Boz がメインに作った曲の中には後のアルバムに通じる曲もあり、アルバムの最初を飾る『You Make It So Hard (To Say No)』と続くタイトル曲の『Slow Dancer』ではその触りを感じる。この2曲で聴かれる女性バック・コーラスでも後の Boz のスタイルへの繋がりが感じられる。

Allen Toussaint のカバー『Hercules』では、このアルバムでもう1つのスタイルである R&B の雰囲気があり、この曲もまたブラック・ミュージックの匂いを十分に感じる。Boz は Allen Toussaint の曲がお気に入りなのか、2年後にリリースされる『Silk Degrees』でも『What Do You Want The Girl To Do』を取り上げている。

Motown サウンドや R&B を取り入れながら自らのスタイルを探しているような『Slow Dancer』には、後のヒット曲に並ぶような強力な存在は少ないが、タイトル曲や『I Got Your Number』など小粒でいい曲がそこかしこにある。そして Boz のボーカルにも力強さが感じられるアルバムだ。

Slow Dancer
You Make It So Hard (To Say No)
Slow Dancer
Angel Lady (Come Just In Time)
There Is Someone Else
Hercules
Pain Of Love
Sail On White Moon
Let It Happen
I Got Your Number
Take It For Granted

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